以下はxxxx氏がxxxx年xx月xx日に開かれた記者会見で明らかにした声明です。
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私は2023年4月からxxxxx大学の経済経営学部で、専任講師として職務に当たっていました。ここでの職務を含めた評判は決して悪いものではなかったと自負していますし、それは多くの同僚や学生たちが証言してくれるでしょう。一方でやや距離感の近さが気になる学生もいました。これは個別の問題というよりは、むしろ構造的な問題だったといえます。というのも、xxxxx大学では慢性的に人員が不足しており、学生対応の主要部分もスタッフではなく教員が行うという、一般的な大学ではあってはならない仕組みが常態化していたためです。この学生対応には、授業料の督促や奨学金手続きのサポート、さらには心身に不調のある学生のケアなど、極めて多くのことが含まれます。もちろん、その問題性を認識していましたが、そうした教員の職分を超えた業務をしなければ学生の福祉が損なわれることは明らかでした。しかし、教員と学生との適切な距離を保つことを困難にする環境はやはり問題であり、例えば海外研修などの際には、LINEのようなメッセージアプリで連絡先を交換し合うことが推奨されてさえいました。要するに、xxxxx大学では教員と学生との間には適切な距離があるべきだという原則が存在せず、むしろこの現状は「面倒見のいい大学」という美名で対外的にもアピールされています。
とりわけ連絡先の交換は今回の件に大きく関わっています。というのも、そうした業務の中で連絡先を交換することとなったある学生から、業務範囲を超えた私的なメッセージを受けるようになり、それがやがてエスカレートして深夜1時や2時に電話さえかかってくるようになったことが本件の発端だからです。当時、このことを同僚にも相談していましたが、これはあくまでも「困った話」としての相談でした。というのも、私は男性の教員で相手は女性で学生ですから、この外形的な権力勾配がある以上、なかなかそれ以上の問題にしづらかったためです。加えて、xxxxx大学ではこうした問題に対応する常設のシステムが整備されておらず、私はこれに自力で対処しなければなりませんでした。しかし、これは明らかに一線を超えたつきまといですし、私が一定の恐怖を感じていたことはおわかりいただけると思います。またこの学生は、いわゆる「試し行動」と呼ばれる、意図的に迷惑をかけた上でこちらがどれだけ寛容に接するかを試す行動も私に繰り返しており、これも恐怖を感じる要素でした。それは授業の中で行われることもありましたし、深夜に突然「一緒に散歩しよう」や「コンビニに行きたいから付いてきて」といった到底応えることのできない要求がメッセージや電話で伝えられるといったものもありました。こうした「試し行動」に付随して、ある時には「虚偽のセクハラで告発して解雇に追い込むことは簡単」という旨の発言もありました。これは複数の学生が耳にしています。
この学生の行動がエスカレートするのは今年、2025年に入ってからです。xxxxx大学では、一般的な大学とは異なり、学生がアポイントなく研究室を訪ねるのが常となっていました。時にはノックもなく入ってくるということもありましたし、これは当該学生も例外ではありませんでした。こうしたことが続く中で、不幸なことに、当該学生は私の性的指向、つまりセクシュアル・オリエンテーションを知るという事態が起こったわけです。ここで明確にしておきます。これを自覚してから十数年来、公表せずにきましたが、私はいわゆるセクシュアル・マイノリティと呼ばれる属性を持っています。これを公にせずにきたのは、とりわけ青年期には、男性社会の中でそれを明らかにすることの難しさのせいでもありましたし、物を書くことが仕事になったあとでは、自分の書くあらゆるものがその属性を通じて解釈されていくことを避けたかったからです。なぜいま公表に踏み切ったかについては後ほど触れます。話を戻しますと、当該学生の「試し行動」は、これを機に私の性的指向の暴露を仄めかす発言とセットになっていきました。
ここに至って、問題は私が同僚に相談することさえできないものになってしまったわけです。すでに述べたように、こうした問題を相談できるシステムはありませんでしたし、もし何かしらの会議体での対応協議を願い出たなら、私の性的指向は瞬く間に教職員ばかりでなく、学生の知るところとなったでしょう。これまでにも、大学の会議体で協議された内容が翌日には学生にさえ知られているという事態は頻繁に起こっていました。情報管理の基本ルールが職場で十分に浸透しておらず、会議の参加者たちがゴシップとして周囲に話してしまうためです。とりわけ個人情報の管理について、大学のシステムを信用することは全くできませんでした。そもそも、私がセクシュアル・マイノリティではないかという噂話も教職員間の冗談としてありました。大学の所在地であるいわき市では私のように三十代で未婚であるということが奇妙に思えるためらしいのですが、要するに、そうした話題が冗談として成り立ってしまう、教育組織としては信じがたい環境だったわけです。そうした職場で私の属性が会議の論題となれば、それがゴシップになったことは間違いないでしょうし、それを流布することがなぜいけないことなのかを理解する教職員もあの職場では少なかったと思います。
さて、7月31日深夜に私が当該学生の居室を訪問しなければならなくなったのも、当該学生の「試し行動」の結果でした。しかし私はこの晩に、当該学生から渡されていた手紙一式を返却し、奇妙な執着を拒絶する意思を伝えました。それらの手紙の文面にはアイデンティティ暴露を仄めかす内容も含まれていました。ちなみに、返却したわけですから手紙はすでに手元にないわけですが、それより以前に当該学生が渡してきた「交換ノート」はたまたま処分を免れた現物を発見したので、一線を超えたつきまといの物証として現在も保管しています。問題は、この深夜の訪問を大学が知ることとなり、私は十分な説明を行うことができないままに懲戒免職となったことです。私が十分な説明を行えなかったのは、この学生とのトラブルが知られると、すぐさま私の性的指向の暴露につながることが明らかだったためです。そうした属性はキャリアよりもはるかに重要な、私の存在にかかわることですから、私は大学での職よりもその秘密を守ることを優先したわけです。ここでの私の判断が広く一般にどう映るかはわかりませんが、まだカミングアウトをしていない人も、すでにカミングアウトした人も含めて、多くのセクシュアル・マイノリティの当事者たちがこの判断に至るまでの私の心の動きを理解できるだろうと思います。ところがさらなる問題は、おそらく大学が当該学生に行った調査が刺激となって、この学生が警察に被害届を提出したことです。意思に反して住居に侵入されたという被害届です。私が拒絶の意思を伝えたことで当該学生は大いに気分を害したことが直接のきっかけでしょうが、大学によって調査が行われていることを知って、かつて「虚偽のセクハラで告発して解雇に追い込むことは簡単」と述べていた当該学生は、それ以上のことを報復として実行に移すチャンスを手にしたわけです。もっとも、私が十分な申し開きをしなかった以上、大学が当該学生に連絡をしたのは順当なことと思いますし、この対応に関して大学には落ち度も無かったと考えています。
結局、私は逮捕・勾留されることになりました。私は自分で各種報道を確認したわけではありませんが、私が訪問したこと自体は認めたことをもって、ある報道では私が容疑を大筋で認めたというような報じられ方もなされたようです。この逮捕と報道以上に破滅的なことは起こりえないだろうと考えていましたが、さらに私にとって最も辛いことが起こるのはここからです。この捜査の過程で、私の性的指向は警察の知るところとなったのですが、取調担当官はその事実確認と称して、この情報を私のかつての交際相手に暴露しました。いわゆる「アウティング」をしたわけですが、確かなことは、この人権侵害をしてまで行なった事実確認の結果として、警察は特に有益な情報を得たわけではないということです。結果から言えば、これは私に対する揺さぶり、有体に言えば、嫌がらせの効果しかなかったわけです。実際、私は打ちのめされましたし、やがて勾留期限がきて釈放となりましたが、とてもそこから裁判をするほどの力は残りませんでした。また、私には釈放後にすぐさま連絡を取りたい相手がいましたから、裁判となればスマートフォンなどの返却にはしばらく時間がかかるという取調担当官の言葉を信じて、略式命令を甘んじて受けるという選択をしたわけです。
私が今日こうして自分の性的指向を明らかにしたのは、要するにアウティングされてしまったためです。取調担当官はアウティングを実行に移す前にそれを繰り返し仄めかしてきたので、私はそれに抗議しましたが、彼は「ま、これが逮捕されるってことですから」と笑顔で答えました。こうした属性の暴露は、その恐怖によってたやすく人を支配することを可能にします。しかし、私はもうこれ以上恐れませんし、これ以上恐れないために公表するという選択したわけです。
さて、ここまでが経緯の簡単な説明でしたが、ここからはxxxxx大学に対して提起する訴訟についてです。このように大学のみを相手取った訴訟とするのは、当該学生とのトラブルについてはすでに捜査が終結しているため、私がこの過程で経験した、警察の認識とは異なる事実関係については、この記者会見にて自分の言葉で説明するにとどめるほかないからです。もちろん、当該学生のつきまといについてはいくつかの物証、そして証言することができる関係者を確保していますが、そちらの法的措置については考えていません。また大学に対しても、多くの制度的問題やガバナンス上の問題を指摘しなければなりませんが、恨みがあるわけではありません。とはいえ、今回の懲戒処分の根拠となっている就業規則がそもそも曖昧であり、その規則への違反という判断もまた必然的に曖昧であることは指摘しなければなりません。したがって、この訴訟で私が原告としてxxxxx大学に求めるのは、懲戒処分の取り消しと、現在までに受け取ることができたはずの経済的損失の補填です。この懲戒処分は私の法的身分が確定する1ヶ月ほど前に行われたわけですが、そうした曖昧な根拠に基づいて懲戒処分を決定したプロセス的な問題について、民事訴訟にて明らかにしていきたいと考えています。もちろん今日の会見でお話しした背景も勘案されるべきとは思いますが、ひとまず純粋にこの懲戒処分に至る根拠やプロセスの妥当性のみを争点としたいというのが私の望みです。
加えてxxxxx大学に求めることは、本件に少なからず影響を与えた、学生と教員との距離の見直しです。具体的には、学生支援スタッフの大規模拡充によって教員の職務範囲を限定することを求めます。私は復職を希望しませんが、大学という教育機関があの地にあり続けることの意義は認識していますし、そうであるならばその教育機関が教職員にとっても安全であることは持続可能性の条件だと考えます。本件の本質が、性的マイノリティの地位の脆弱さの問題であるとともに、労働問題であるということは、私がこの記者会見で強調したいもう一つの点です。
